高齢とは?/ キャッシュワン
[ 506] 社説ウオッチング:後期高齢者医療制度 失政認め再議論を - 毎日jp(毎日新聞)
[引用サイト] http://mainichi.jp/select/opinion/watching/news/20080525ddm004070181000c.html
75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度がスタートして間もなく2カ月になろうとしているが、新制度に対する反発は高齢者を中心に収まる気配がない。 年金からの保険料天引きに対する不満や混乱だけが原因ではない。なぜ74歳から1歳年を重ねただけで「後期高齢者」に仕分けされ、差別されなければならないのかという制度の根本にかかわる疑問や批判が背景にあるからだ。 毎日新聞が今月初旬に実施した世論調査によれば、8割近い人が新制度を評価していない。自民党支持者でも6割超が「評価しない」と答え、公明党支持者ではさらに厳しい反応が示された。 こうした世論を追い風に、民主党など野党4党は23日、後期高齢者医療制度は差別的だとして、同制度の廃止法案を参院に提出した。これに対し、与党は低所得層の負担軽減などの運用改善策を講じることで批判をかわそうとしている。 各紙とも、対案を示さずに「まず廃止ありき」の野党の姿勢を批判、疑問視する点では共通している。ただ、毎日が「75歳線引き」という制度の根幹の是非から論議をやり直すべきだと主張しているのに対し、読売、産経が野党の廃止法案への批判を前面に出し、朝日が財源問題から逃げるなと強調している点にそれぞれの特色があらわれている。 毎日は「そもそも病気になるリスクの高い高齢者だけを対象にした制度は保険原理にはなじまない。多くの元気で健康な人が病気の人たちを支えるというのが保険制度だが、後期高齢者医療制度はそうはなっていない」と指摘する。 そもそも政府が75歳以上を従来の医療保険から切り離す新制度をスタートさせざるをえなくなった背景には、国家財政が苦しくなる中での国民医療費の大幅な増加がある。 高齢者1人当たりの医療費は現役世代の5倍かかり、年間30兆円を超す医療費の3割以上は老人医療費が占める。少子化によって現役世代の人口が減れば世代間の仕送り方式で運営される社会保障制度の基盤が早晩崩れるのは目に見えている。 こうした財政事情を踏まえ、新制度では給付財源について、窓口負担分を除き後期高齢者の保険料1割、国と地方の公費5割、現役世代からの支援金4割という配分にした。政府は、これによって現役世代と後期高齢者の負担関係が旧制度よりわかりやすくなるうえ、都市と地方の保険料格差の是正にもつながる、と利点を強調している。 この点について朝日は、旧制度に戻れば「今後、お年寄りが増えた時に、いまでも厳しい国保の財政が維持できるとは思えない」「あいまいな点をはっきりさせておこうというのが新制度だ」と一定の理解を示す。読売は「新制度で老人保健制度の問題点は改善しており、再び後退するのは望ましくない」、産経は「新制度はスタートしたばかりで、当面は問題点を改善すべきだ」と、新制度の骨格は維持すべきだとの主張を展開している。 一方、野党に対しては各紙とも厳しい。毎日は「元の制度に戻すという案では国民は納得しない。野党の医療改革への熱意が感じられない」、読売は「とりあえず、従来の老人保健制度を復活させるという。これでは、あまりにも無責任ではないか」、産経は「そもそも、新制度が導入されたのは、旧制度への批判が強かったためだ。その旧制度に戻すというのでは、無責任と言わざるを得ない」と批判。朝日も「制度を『元に戻せ』と言うだけでは、問題は解決しない」と指摘している。 日経、東京もこれまでの社説でそれぞれの主張を展開している。日経は「高齢者医療は運営を早急に立て直せ」(4月29日)、東京は「低所得層ほど不利な構造の是正を急ぎたい」(5月2日)としている。 廃止法案は参院で可決されても、与党が圧倒的多数の衆院を考えれば日の目を見ることはないだろう。制度をどうするかは最終的には有権者の判断を仰ぐべき重要問題だが、その前に与野党がやらなければならないことは明白だ。 単なる財政のつじつま合わせでなく、財源問題も含め医療制度のあるべき姿について真剣な議論をこの国会で深めることだ。それを抜きに政局がらみの思惑を優先させ不毛な対立を続けるようでは政治不信を高めるだけだ。新制度への反発は、政治に対する高齢者の「反乱」であると認識すべきだろう。【論説委員・森嶋幹夫】 毎日jp掲載の記事・写真・図表など無断転載を禁止します。著作権は毎日新聞社またはその情報提供者に属します。 |
[ 507] 特集ワイド:後期高齢者医療制度 元厚生労働相・尾辻秀久に聞く - 毎日jp(毎日新聞)
[引用サイト] http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080526dde012040024000c.html
後期高齢者医療制度への批判が高まり、自民・公明両党が見直しに着手した。一方、野党4党は、同制度の廃止法案を参院に提出した。元厚生労働相で、長年同制度の議論にかかわってきた尾辻秀久・自民党参院議員会長(67)にこの混乱をどう見るか聞いた。【太田阿利佐】 尾辻−−制度が変われば、国民は不安を持つ。なのに説明をきちんとしていなかったのが最大の原因でしょう。米国は約4000万人が医療保険に入っておらず、病気になったら医療費は全額負担で、極めて悲惨です。日本はみんなが医療保険に入り、これが支えとなって世界一の長寿国ができた。国民皆保険制度は国の宝。それを守るための後期高齢者医療制度なのに、理解されていない。高齢者から今まで保険料を取っていなかったのに、取り始めたという誤解まである。被扶養者の75歳以上の方は例外だったなど、細かい違いはあるのですが。 尾辻−−私も大きくかかわってきましたが、細かな点は除き、75歳以上で独立した医療保険制度をつくるという骨格部分は間違っていないと思います。 尾辻−−低所得層への手厚い配慮の仕組みがなかった。個人的には、収入が基礎年金満額の月6万6000円までの方ぐらいを対象に、現在は7割が最大の保険料減免を、9割引きあるいは今はできない全額減免を可能にする。低所得層には、今まで以上に手厚くという考え方をとればよかったが、財源の問題で非常に難しくなってきていた。 尾辻−−最初の5年は社会保障制度を見直すべき時期でもあり、計1兆1000億円が削減できた。もう無理です。乾いたタオルを絞っても水は出ない。これ以上やれば社会保障、特に医療が崩壊します。 −−これまでにリハビリの保険給付が最大180日で打ち切りになったり、介護保険の要介護度認定の見直しがされてきた。医師不足や救急患者の受け入れ拒否が問題になって不安が広がっている時に、新しい制度が始まった。 尾辻−−私に言わせれば、政府の経済財政諮問会議の責任は大きい。結局彼らの言うことは、日本の社会をアメリカみたいな自己責任の社会にしろということでしょう。年を取ってメシが食えなくなっても、それは若い時にちゃんとやっていなかった自分の責任だ、病気で医者にかかれなくても医療保険に入っていなかった自分の責任だと。少なくとも小泉内閣の時の経済財政諮問会議はそういう社会にしようと言っていると私は理解したし、私がそうなんだから、国民の皆さんもそうでしょう。それに対して国民が不安を持ったのではないか。 尾辻−−そうです。それに最近のテレビのコマーシャルは、民間の医療保険ばかりです。「やはり民間の医療保険に入らないとダメだ」と言っているようにも聞こえる。 尾辻−−プライマリーバランスの改善といっても、諮問会議は「歳出を抑える」の一辺倒。歳入を大きくする、つまり増税は念頭にない。小泉純一郎元首相は「まず歳出削減がないと、国民は増税に納得しない」と言う。必ずしも間違いではないが、過ぎると国民に痛みが伴ってくるし、特に社会保障費削減は人命にかかわる。 彼らは財政至上主義です。反論もあるでしょうが、分かりやすくいうと、カネと命のどっちを大切にするかの問題で、彼らはカネが大事だと言う。私は命が大事だと言わざるを得ない。 −−75歳以上だけを独立した保険制度にするのは、非人道的だとの指摘もある。医療費増大が保険料に跳ね返るため、医療を受けることをためらう人も出るのではないか。 尾辻−−75歳での線引きは、今までも老人保健制度でやってきました。75歳の線引きが非人道的だというなら、現役と一緒で自己負担は3割でいいですかと逆に質問をしたい。私は1割に抑えたいと思う。もし3割でいいなら、全然違う話です。 尾辻−−75歳以上の特別な保険証をつくったのが間違いだったのかもしれません。年金からの保険料天引きもそうですが、最初から引かれるから腹が立つ。75歳以上の方の国民健康保険料の収納率は98%と高いのだから、天引きの必要はそうなかった。「はい75歳で、あなたは後期高齢者になりました。天引きします」とやられると……。その配慮がなかった。 尾辻−−名前も変えた方がいいでしょう。後期高齢者というネーミングはやはり感情を刺激したと思います。せめてシルバーとか。 小泉内閣時代の諮問会議を中心とする自己責任、つまり国はあまり面倒を見ないよというような印象が、「国は一生懸命国民の老後も考えてくれている」と変われば、国民の怒りも収まるのかもしれません。福田康夫首相もお気の毒です。いわば小泉政治のツケの責任を問われている。一方で、今でも小泉さんは人気で、国民には小泉さん再登板待望説もあるとか。不思議です。 尾辻−−分かりません。私の印象ではとても楽観はできません。かりに削減が見直されても、少子高齢化の今、何の手も打たないでいればいずれ「国民皆保険はあって当然」ではなくなる。私は、今度のことは良かったと思っています。これだけ健康保険制度に国民の関心が集まって議論の機会ができたんですから。 <聞いて一言> 国民皆保険を守るためと言うが、「後期高齢者診療料」の新設など、高齢者の健康より医療費の財政負担削減を優先する仕組みが目立つ。「命の問題」なのに、郵政選挙での大勝を背景に、国民の声を十分聴かずに衆院で強行採決した結果が今の混乱だ。国民は個別の制度を評価しているのではなく、公的年金改革が迷走し、物価上昇で年金も目減りする中、介護保険料も上がる現状に怒っている。「きちんと説明すれば理解を得られる」とは思えないのだが……。 毎日jp掲載の記事・写真・図表など無断転載を禁止します。著作権は毎日新聞社またはその情報提供者に属します。 |
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